「これって崩しちゃった人はどうなるんですか?」
「崩した人は罰ゲームなんだけど、どうしようかなぁ……崩したブロックに書かれてる命令から残りの3人が好きなだけ選んでそれをやってもらうとか、どう?」
「お、いいね、そうしよう。」
「え~でもそれ怖いですね、私が崩しちゃったらどうしよう……」
「ハハッ、罰ゲームはそれくらいじゃないと意味ないよ。さ、始めようか。」
そしてラブジェンガを使ったゲームが始まった。
俺はもちろん亜紀がどんな命令をされてしまうのか心配していたのだが、最初は意外にもお笑い的な要素が殆どで軽い内容の命令が多かった。
男達が引いたのは【1人コントをする】とか【ものまねをする】とかそんなのばかりで、亜紀も牧原達が披露する芸を見て笑っていた。
「あ~怖い……」と言いながら亜紀が引いたブロックも、書いてあった内容は【3周回る間正座】と【全員から頭を撫でられる】だった。
ラブジェンガってこんな物だったのか……?
俺は今の所亜紀が卑猥な事をされていないので安心する一方で、どこか拍子抜けしたような気分でいた。
しかし、ここからが王様ゲームのジェンガ版だというラブジェンガの本番だった。
少しずつお笑い要素の命令が減り、その方向性が徐々に変わっていく。
「次亜紀ちゃんだよ。」
「あ、はい。うーん……そろそろ気を付けないと崩れちゃいそう……どれにしようかな。」
何周か回ってブロックもある程度減ってきた。
まだ一応積まれたブロックの塔は安定しているように見えるものの、油断したら崩れかねない。
亜紀は今までよりもさらに慎重にブロックを指で軽く押しながらゆっくりと抜いた。
「はぁ、抜けた。えっと……」
だが抜いたブロックに書いてあった命令を見た瞬間、亜紀は少し笑いながら「え~……」と言ってガクンと肩を落とす仕草をしてみせた。
「亜紀ちゃん、なんて書いてあったの?」
「……これです……」
そう言って亜紀が牧原にブロックを見せた。
そこに書いてあった命令は【パンツの色を発表】だった。
「なんだよ亜紀ちゃん、別にパンツ色を知られるくらい大したことないでしょ?」
「……ん~でも、やっぱりこういう命令もあるんですね。」
「あるよぉ、こんなの序の口だよ。まだまだこれからだよ、このゲームは。」
「やっぱりそうなんですね……。」
「で、パンツの色は?」
「えっと……なんか、改めて発表するのってなんだか恥ずかしいですね。」
「恥ずかしいから良いんだよ。で、何色なの?」
「えっと、白……で、花柄だったと思いますけど……。」
「本当に?ちょっと確認するから見せてみな。」
「え~ダメですよぉ。」
簡単には牧原達の口車に乗らなかった亜紀。
その後牧原に「じゃあトイレで自分で確認してきなよ」と言われ、亜紀はトイレへ。
帰ってくると「やっぱり白で花柄でした」と亜紀は言った。
「花は何色?」
「えっと、ピンク……です。」
「白にピンクの花柄かぁ、亜紀ちゃんに似合うなぁ。」
「エヘヘ……そうですか、ありがとうございます。」
恥ずかしげにパンツの色を発表し終えた亜紀。
でもまだこの程度は許容の範囲内なのか余裕のある表情をしている。
次は篠田がブロックを抜いた。
書いてあったのは【右隣の人の耳に吐息】だった。
篠田の右に座っているのは亜紀だ。
「よ~し!じゃあ亜紀ちゃん、横向いて。」
「わぁ……また私ですかぁ……」
「命令だからね。ほら耳こっち向けて。」
「……分かりました。」
そう言って亜紀は髪を分けて篠田に自分の耳を向ける。
「白くて綺麗な耳だなぁ。」
篠田は亜紀の耳を舐めるようによく観察した後、口を近づけて息をそっと吹きかけた。
「キャッ」
その瞬間、身体をビクンッと反応させた亜紀。
「へへ、亜紀ちゃん耳弱いの?」
そう聞かれ小さく頷く亜紀。
「じゃあこうやって触られるのも弱いんだ?」
調子に乗って亜紀の耳を手で触る篠田。
「アン……もぉ篠田さん、命令と違いますよぉ……」
「ハハッ、ごめんごめん。亜紀ちゃんの反応が可愛いからさ、ついついやってあげたくなっちゃうんだよ。」
亜紀はまた「ダメですよぉ」と口癖のように言って篠田の肩を軽く叩く仕草を見せた。
俺は亜紀の方からも篠田に気軽にボディタッチをし始めているのを見て、さらに不安になっていった。
そして次は牧原の番。
牧原はブロックを引いた瞬間にガッツポーズをして見せた。
書いてあった命令は【正面の人にキス】
正面にいるのはまたも亜紀だ。
……キス……
パンツの色を言わされていた時点で、いつかこういう命令もされてしまうかもしれないとは思っていたものの、俺は激しく動揺していた。
なにせ亜紀が他の男とキスをするシーンなど、今まで想像すらした事がなかったのだから。
亜紀も「えっ?えっ?キス……ですか?」と言って動揺している。
「やっぱりこういう命令がないと盛り上がらないよなぁ。」
牧原はそう言って席を移動して亜紀の隣に座ると、亜紀の肩に手を回して身体を抱き寄せた。
ああ、亜紀……止めてくれ……牧原と亜紀がキスをするところなんて、見たくない……
「わっわっ……本当にするんですか?」
「そうだよ、命令は絶対だからね。ほら、目を閉じて。」
「え~ちょ、ちょっと待ってください……そんな急に……」
慌てる亜紀と、それに構わず強引に迫る牧原。
「亜紀ちゃんどうしたの?もう大人なんだし、キスくらいでそんな大騒ぎする事じゃないでしょ?」
「でも……」
「緊張しちゃう?」
牧原からの問いに小さく頷く亜紀。
「じゃあこれ飲みなよ、落ち着くから。」
そう言ってグラスに入った酒を亜紀の口元に運ぶ牧原。
亜紀はそれをされるがままに口に含む。
「飲んだ?じゃあ目を閉じて。」
「……でも……」
「いいから閉じなよ、すぐに終わるからさ。」
そして牧原のその言葉で、亜紀は観念したようにそっと目を閉じた。