「えっ?た、試してみるって……えっと、あの……それって……?」
亜紀は動揺した様子で牧原達に聞き返した。
もちろん動揺してるのは、分からない素振りを見せている亜紀が本当は〝試してみる〟という言葉の意味を理解しているからだろう。
「いやだなぁ亜紀ちゃん、ここに丁度男が3人いるじゃん。どう?やってみる?」
そう言われて亜紀はカァっと顔をさらに赤くさせた。
「えっ?えっ?……でも私……」
「ダメ?」
そうもう一度聞かれ、亜紀は困惑しているようだった。
当然だろう。知り合ったばかりの男にセックスしてみない?なんて聞かれたら誰だって困惑する。
でもなぜかこの時、亜紀の口からは「ダメですよ」とか「無理です、できないです」というような言葉は出てこなかった。
俺はさすがにここはそう言って断ってくれるだろうと期待していたのだが、亜紀はただただ困ったように顔を赤くしているだけ。
俺はそんな亜紀を見てもどかしかったのと同時に、心配で心配で仕方なかった。
もし亜紀は首を縦に振ったら……いいですよ、とでも答えたら……
信じられないが、もしかして信じられないような事がこれから目の前で始まってしまうかもしれない。
この時はきっと亜紀以上に俺の方が動揺していたと思う。
しかし、そこで急に牧原が笑ってこう言い始めた。
「ハハハッ!ごめんごめん、亜紀ちゃん冗談だよ。」
「え……じょ、冗談ですか……?」
亜紀と共に拍子抜けする俺。
「さすがに彼氏がいるのに無理だよね?ごめん、ビックリしちゃった?」
「……は、はい……」
「ハハッ、亜紀ちゃん顔真っ赤だね。」
「だって……からかい過ぎですよぉ……」
そう言って亜紀は自分の赤くなった顔を手で扇いだ。
「でも亜紀ちゃん、ぶっちゃけちょっと迷ってたよね?もしかしてOKだった?」
「そ、そんな事ないですよぉ……」
篠田に聞かれ、やっと否定してくれた亜紀。
「まぁ俺達は亜紀ちゃんならいつでも歓迎だけどね。な?」
「そりゃ昼間のあの亜紀ちゃんの素敵な水着姿を見た男だったら誰でも歓迎するよな。」
「もぉ……褒められてるのかセクハラされてるのか分かんないです……。」
亜紀は恥ずかしがりながらも少し笑ってそう篠田や坂本に返した。
「それより亜紀ちゃん、もう部屋に戻る?それとももうちょっと俺達の裸観察する?なんならここも触ってみてもいいけど?」
そう言って自分の股間を指差す牧原。
「も、もう大丈夫ですっ。あ、あの……服着てください。」
「ハハッ、分かったよ。じゃあ部屋に戻ろうか。」
それから牧原と坂本はようやく服を着て、4人は部屋に戻って行った。
「坂本、バスタオルある?」
「脱衣室にあるよ。」
コテージの中に戻ってから篠田と坂本はタオルを取りに、牧原はトイレに行ってくると言って部屋を出て行った。
その間、リビングに1人になった亜紀はソファに座っていた。
「はぁ……私、何やってるんだろう……」
先程までの出来事を少し冷静になって思い出したのか、亜紀は自分の頬っぺたに手を当ててそう言葉を漏らした。
知り合ったばかりの男の裸を見たり、触ったり。
亜紀の普段の日常からはあまりにかけ離れた時間だった。
「私、絶対酔っぱらってる……」
亜紀がいつもと違うのはアルコールのせい。
俺もそう思いたかった。
でもアルコールが入っているとはいえ亜紀がここまで心を許しているのだから、きっと牧原達といると楽しいのは事実なのだろう。
そもそも普段の亜紀なら、こんなに酒を飲まないし。
「直樹、もう起きてるかな……?」
亜紀は携帯電話を取りだし、そう呟いた。
久しぶりに名前を読んで貰えて嬉しくなってしまう俺。
そうだ亜紀、もう俺の所に戻ってくるんだ!俺達のコテージに。
俺は亜紀が正気に戻ってくれる事を期待して、携帯を持つ亜紀の姿を見つめていた。
するとそこに牧原が戻ってきた。
「亜紀ちゃんどうしたの?携帯なんか持って、誰かに電話?」
「あ、はい、ちょっと直樹に電話しようかなって。もう起きてるかもしれないし。」
「え?あ~そっか。そういえばそうだったね。……うーんでもさ、でもまだ10時前だし、亜紀ちゃんもまだ遊び足りないんじゃない?また直樹の看病しに戻るの?」
案の定、牧原は亜紀が俺に電話する事を快く思っていないようだった。
〝看病〟という言葉を使って遠まわしに亜紀が戻らないように誘導している。
「ん~でも……一応電話だけしてみます。ちょっと心配だし……」
「そ、そっか。」
牧原もさすがにそれ以上は何も言えないようで、亜紀は「じゃあちょっと電話してきますね」と言って携帯を持って部屋を出て行った。
よしっ!これで俺がこの電話で亜紀に帰ってくるように言えば、亜紀は絶対に戻ってきてくれるはずだ!
……。
しかし俺はそこで大変な事に気付いた。
俺は、携帯電話を持ってきていなかったのだ。
焦ってポケットの中を探したがやはり無い。
そうだ……慌ててコテージから出てきたから、ベッドの横に置いてあるのを忘れてきてしまったんだ。
「あれ?亜紀ちゃんは?」
「彼氏に電話しに行ったよ。」
後から戻ってきた篠田と坂本にそう説明する牧原。
「え?じゃあもしかして、もう帰っちゃうのか?」
「まだ分からんけど、そうなるかもな。」
「うわぁマジかよ!?せっかく良い感じだったのに。」
「基本的に真面目っぽいからな、亜紀ちゃん。でももし残ってくれたらイケそうだけどな、さっきの感じだと。」
「帰っちゃうのは勘弁だわ。今回は牧原が亜紀ちゃん1人に絞るって言うからナンパもしなかったんだぞ。ダメだったら風俗行くしかねぇぞマジで。金出してくれよな?」
「おいおい、お前らも空港で見た時から今回は亜紀ちゃん狙うって事で賛成してくれてただろ?」
「いやまぁそうだけどさ。だってあの顔であの身体は反則だろ。胸も美味そうだし、ケツも結構良いよな?その割に細いしさ。」
「確かにな。会ったのは偶然とはいえ、今さらあれを逃すのは痛いよな。」
「元々ナンパした子とヤリまくる予定だったからさ、俺なんて2週間くらい溜めてきてるからな。もうキンタマ重くて限界だっての。」
「ハハッ、2週間とか凄いな。まぁ俺も1週間はしてないから今日が限界だな。」
「なぁ、この辺良い風俗あるのかよ?」
「一応あるけど質は分からん。まぁそんなに失望するなよ、まだ亜紀ちゃんが帰るか分からんし。」
「残ったら絶対堕とすぞ。あ~早く亜紀ちゃんとヤリてぇ、バックから突きまくってヒィヒィ言わせたいわ。」
「まぁそう焦るなよ、俺の経験上ああいうタイプの女はじっくりやってかないとダメだからな。ましてや男がいる女は。」
亜紀の居ない所で本性を剥き出しにする男達の会話を、俺は背筋が凍る想いで聞いていた。
やっぱり、牧原達は最初からそれが目的だったんだ……。