俺は亜紀を送り出したものの、部屋で1人になった瞬間から不安になり始めていた。
亜紀は今、俺の事をどう思っているのだろう、と。
留年という大失敗をやらかし、関係改善を図るための旅行でもこの有り様。
亜紀は俺に愛想を尽かしたんじゃないだろうか。
俺は亜紀に捨てられてしまうかもしれない。
そして亜紀は他の男のところへ……。
そう思うと不安で不安で仕方なかった。
亜紀は浮気をするような女じゃない。
その点を心配した事は今まで一度もないし、亜紀の心が他の男に傾いていくなんて想像すらした事はなかった。
でも今はその自信がない。
全く眠れない……。
亜紀と牧原達は今頃どうしているのだろう。
本当に夜景を見に行ったのか……?
考え始めると心配事は増えるばかりで、きりがなかった。
しかしそれから少しして、俺の携帯が鳴った。亜紀からのメールだ。
〖夜景凄い綺麗だよぉ(^o^)/明日直樹の体調が良くなってたら2人でまた来たいなぁ(*^_^*)〗
そしてそのメールには綺麗な夜景の写真が添付されていた。
俺は単純だな。
亜紀からのそのメールを読んだら、なんだかさっきまでの不安が消えて、ホッとしてしまった。
亜紀は今も俺の事を考えてくれている、亜紀の心にはまだ俺がいるんだ、と。
安心したからだろうか、俺は亜紀に返事を送ると、そのまま眠りについてしまった。
それから俺が目を覚ましたのは深夜の3時頃。
しかし部屋を見渡すも亜紀はまだ帰ってきていない。
時計を見て少し驚いた。
もうこんな時間なのに、まだ帰って来てないのか……?
すると外から車の音が。亜紀と牧原達がやっと帰ってきたみたいだ。
車のドアを閉める音と、亜紀と牧原達の声。
なんだか4人共テンションが高めで、はしゃいでいるような雰囲気が伝わってきた。
「あ~楽しかったぁ!本当にありがとうございましたぁ。」
「俺達も楽しかったよ。ていうか亜紀ちゃん意外とノリ良いんだね、もっと大人しい子かと思ったよ。」
「え~そうですかぁ?でも本当に楽しかったから。」
亜紀と牧原達は車を降りた後も外でしばらく会話を続けていた。
その話しっぷりを聞く限り、亜紀はかなり牧原達と打ち解けているようだった。
牧原達が時折亜紀を冗談っぽくからかい、亜紀はその度に「も~そんな事ないですよぉ」と笑いながら返したり。
どうやら亜紀はあのメンバーの中で弄られ役になっているらしい。でもそれが全然嫌じゃなさそうというか、寧ろ嬉しそうにしているみたいだった。
「あ、もうこんな時間だ。」
「もうさすがに寝ないとな。亜紀ちゃんも明日海だろ?俺達、絶対亜紀ちゃんの水着姿見に行くからさ。」
「え~そんな風に言われるとなんか恥ずかしいかも。」
「大丈夫だって、亜紀ちゃんスタイル良いしさ。服の上かでも分かるよ、特にこの辺とか。」
「ちょ、ちょっともぉどこ見てるんですかぁ、やだぁ。」
「ハハッ、いやでも本当にスタイル良いでしょ?」
「全然そんな事ないですよ、自信ないですもん。それより3人の方がスタイル良くないですか?なんか牧原さんも篠田さんも坂本さんも皆モデルさんみたいに背高いし。」
「そう?まぁ、篠田は筋肉バカだけどね。」
「おいおいバカは余計だろ、俺の筋肉はちゃんと美しさを追求してトレーニングしてるんだぞ。」
「篠田さんってそんなに凄いんですか?じゃあ私もちょっと見てみたいかも。」
「あれ?亜紀ちゃんもしかして筋肉フェチだったりするの?」
「ん~そういう訳じゃないけど……でも嫌いじゃないかも。」
「なんか亜紀ちゃん発言が大胆になってきてるねぇ、深夜だから?」
「え~そうですか?フフッ、じゃあもう寝ないとですね。」
「しっかり体力充電しとかないとな、明日も夜まで遊びまくるから。」
「そうですね、早く寝ないと。」
「じゃあ亜紀ちゃん、また明日ね。」
「は~い。」
そんな会話の後、男達3人は帰っていき、亜紀は部屋に戻ってきた。
俺は4人の会話を聞いて、また少し牧原達に嫉妬していた。
だから亜紀がベッドの中の俺の顔を確認しにきても、不貞腐れたように寝たふりを通した。
亜紀は眠っている俺の顔を見て「直樹寝てる?ちょっと遅くなっちゃった、ごめんね」と言って目を閉じたままの俺の頭を優しく撫でてきた。