飛行機は無事に到着した。
牧原は到着した空港で俺達に(というより亜紀に)連絡先を渡してきた。
「暇になったらいつでも連絡してよ。あと何か困った事とかあったら。俺達ここはある程度慣れてるからさ。」
「ありがとうございます。」
「あ、そういえば2人はどこに泊まるの?場所だけ把握しておきたいからさ。」
「えっと、〇〇って所なんですけど。」
亜紀は聞かれたから答えただけだとは思うが、もちろん俺達は牧原達を呼ぶつもりは全くない。
予約してあるのはコテージタイプのホテル。
海に近い所にあるコテージで、そちらの方が大きなホテルに泊まるよりも南国気分を味わえるんじゃないかと思って亜紀と2人で決めたんだ。
「あ~知ってる知ってる!コテージがある所でしょ?じゃあ俺達が泊まるコテージと結構近いな。」
「牧原さん達もコテージなんですね。」
「俺達は〇〇って所。知ってる?」
「〇〇?あっ知ってます!でもネットで見ましたけどそこって凄い高級そうな所ですよね?わぁいいなぁ。」
「ハハッ、まぁ来たかったら遊びにおいでよ。亜紀ちゃんならいつでも歓迎するし。」
ふん、行くわけないだろう。
お前らとはもうここでお別れ。ここからは別行動だ。
牧原は最後まで亜紀にしつこく話し掛けていたが、俺達は空港で別れを告げた。
俺と亜紀は荷物を持ってとりあえず予約しておいたホテルへ向かった。
俺達が泊まるコテージは写真で見た物よりも少し古ぼけていたが、それでも海が見える立地は最高で、コテージからは南国らしい景色が広がっていた。
「キャー私達、ついに来ちゃったんだね!」
部屋にあるベッドに飛び込んではしゃぐ亜紀。
こんなに嬉しそうな亜紀は久しぶりに見たかもしれない。
俺はそんな亜紀を見ただけでも来てよかったなと思えた。
「海、すっごい青いね。私こんな綺麗な海初めてかも。」
「本当だ、綺麗だね。」
この日はもうすでに日が傾き始めていたが、まだ予約してあるディナーまでは時間があったため俺達は少し海の砂浜を歩くことにした。
「ねぇ直樹見て!砂がサラサラだよぉ!」
波打ち際で子供のようにはしゃぐ亜紀は、凄く可愛かった。
周りでは水着姿で海水浴を楽しんでいる人たちもいる。
明日は俺と亜紀も水着になって、この綺麗な海を思う存分満喫するんだ。
青い空、青い海、白い砂浜、その中で笑顔輝く亜紀の水着姿が早く見たいな。
2人で海辺を散策していると、直に夕方になって夕日の光が空や海を染め始めた。
「そろそろレストランに行こうか。」
「うん。どんな料理かなぁ、楽しみだね。」
俺達は初日から現地の雰囲気を楽しみたいと思い、ディナーはこの島の郷土料理のコースを予約していた。
ところがそのレストランに到着した頃から、俺の身体に再び異変が起き始めた。
どうやら飛行機内で起きた腹痛は、ただの腹痛ではなかったらしい。
「わぁ、美味しそう!こんなの初めてだね。」
「美味しい!直樹これ食べてみて、すっごい美味しいから!」
お店自慢の郷土料理が運ばれてきて、その物珍しさや美味しさに亜紀は感動しているようで楽しそうだった。
「どうしよう、美味しくて食べ過ぎちゃうよ。でもいいよね、明日は海で沢山遊ぶんだし、エネルギー沢山蓄えとかないとね!」
俺は最初、自分の身体の異変に気付きながらも、この楽しいディナーの雰囲気を壊したくないと思い、亜紀には黙って我慢していた。
もしかして亜紀の笑顔を見ている内に良くなるかもしれないと思ったから。
「直樹、どうしたの?あんまり進んでないみたいだけど、もしかして口に合わない?」
「いや、そんな事ないよ、美味しいよ。」
しかし時間が経つにつれ俺の体調は悪化していった。
腹痛は軽いけれど、徐々に気分が悪くなってきて、頭もクラクラしてきた。
まだディナーの後も亜紀と街を回る予定があるんだ。
しっかりしろ俺!
だが、俺の我慢はデザートを待っている間に限界に達した。
水を飲もうとグラスを持った瞬間、俺は急激な目眩(めまい)に襲われ、グラスは俺の手から滑り落ちた。
ガチャンッ!!
「直樹っ!?」