俺は突然の背後からの声に驚き、慌てて下げていたズボンを上げてペニスをしまった。
そして後ろを振り向くと、そこにはニヤニヤと笑みを浮かべた牧原が立っていた。
「何やってんだよ、お前。」
「ぇ……い、いや……」
「何やってんだって聞いてんだよ。」
「そ、それは……あの……」
俺は牧原の目の前で、これ以上ない程動揺していた。
目が泳いで、どこを見ればいいのか、何を答えればいいのかさえ分からなかった。
全身の毛穴から噴き出す冷たい汗。
急に現実に戻されたような気分だった。
「ちょっと来いよ。」
何も答えられずに固まっている俺の胸ぐらを掴んで、無理やり立たせる牧原。
そして俺はそのまま牧原に引きづられるようにして、亜紀達がいる裏庭とは逆の、建物の表の方へ連れて行かれた。
俺よりもずっと身体が大きく、力もある牧原に、俺は全く抵抗する事はできなかった。
「痛っ!」
玄関の前まで連れてこられると、牧原は俺の身体を乱暴に突き飛ばし、俺はそのまま尻もちをつくようにして倒れた。
さっきまでニヤニヤしていた牧原の顔は、一変して怒りの満ちた表情になっていた。
「お前、ずっと覗いてたのか?」
「……」
「おい!覗いてたのかって聞いてんだよ!」
「……す、すみません……」
牧原のドスのきいた声に、俺はビビっていた。
もしかして殴られるかもしれないと思ったからだ。
だから反射的に謝った。高校時代のように。
俺は、牧原が怖かったんだ。
しかし、そんなオドオドしている俺を見て、牧原は再び吹き出すように笑い出した。
「……ぷっ……ブハハッ!お前さ、さっきシコッてただろ?もしかして亜紀ちゃんが俺達とヤッてるの見て興奮してたのか?」
「……そ、それは……」
「ハハッ!情けねぇ奴だなぁ。ていうかさ、お前男のくせにマゾなのか?彼女が他の男にヤられてるの見て勃起するとか、頭おかしいだろ。」
牧原に見下され、馬鹿にされ、俺のペニスはすっかり縮こまってしまっていた。
そして、俺の目からは自然と涙が溢れ出始めた。
堪えようと思っても堪え切れなかった。
悔しさと、悲しさと、虚しさが重なって、俺の感情はもう決壊してしまっていた。
牧原の言う通り、自分が情けなかった。
「ん?ハハッ、お前泣いてんの?意味分かんねぇ。さっきまでオナってたくせによ。」
俺は何も答えられず、牧原の顔を見る事もできず、ただ下を向いて泣いていた。
「まぁ安心しろ。お前が覗きながらオナってた事は亜紀ちゃんには黙っておいてやるからよ。」
「……。」
「だから帰れよ。ていうか帰れ、お前邪魔だからさ。昼間っからそうだったけど。」
〝邪魔〟〝帰れ〟という言葉が俺の胸に突き刺さる。
まさに俺の高校時代を思い出せる言葉。俺はずっと、クラスの邪魔者だったんだ。
邪魔だよ帰れよ、お前はクラスにいらねぇんだよって。そんなクラスの皆の心の声が、俺には毎日毎日聞こえていたんだ。
そして今は牧原達と亜紀が……いや、違う……違う!
でも亜紀は、そんな暗闇の中にいた俺に光を当ててくれた、大切な人なんだ。
確かに俺はクズかもしれない。でも亜紀は……
「……でも……亜紀は……」
「亜紀?亜紀ちゃんはまだ俺達とのお楽しみが残ってるからな。」
「……お楽しみ……」
「言っておくが、レイプじゃないからな。お前も見てただろ?」
「……」
「お前の女さ、超簡単に股開いたぞ。こっちがちょっと誘ったらシッポ振って喜んでさ。真面目そうな顔してる奴に限って、ああいう女って結構多いんだよな。お前もさ、そんなにショック受ける事ないって。女なんて皆あんなもんだぞ?」
「……。」
「フッ、まぁ心配するな、朝までには返してやるからよ。だからお前はさっさと帰れよ、な?分かったか?じゃあな。」
牧原は俺の肩をポンポンと叩いてそう言い放つと、そのまま建物の中に戻って行ってしまった。
「……違う……亜紀は…亜紀はそんなんじゃ……」
俺はその場で、地面に着いていた手をグッと握りしめた。
「ぅ……ぅ……亜紀……」
溢れ出る涙が、握り拳にポタポタと落ちる。
裏庭の方からは、男達の笑い声と亜紀の甘い喘ぎ声が、微かに聞こえてきていた。