撮影2日目も快晴だった。
日曜日だけあって人出も多い。
俺達は、昼前頃からナンパに繰り出した。
この日の俺は、吹っ切れたと言うべきか、開き直ったと言うべきか…、とにかくそこら辺の女の子に声をかけまくった。
その甲斐あってか、夕方までに3人の女の子を、スタジオに連れていくことに成功した。
だが、まぁ結果はインタビューと、軽く下着を見せて終わり、そんなもんだった。
新井を含めた3人も、それぞれ2~3人づつ成功し、長岡が連れて来た女の子は、なんとかセックスまで持ち込めたようだった。
だが、昨日のマリほどのルックスも、いやらしさもなかったらしい…
結局、午後7時頃に連絡が入り、とりあえず会社に戻る事になった。
会社に戻ると、佐々木と長岡、それから監督の大西が、控え室で談笑していた。
「あぁ、木下クン、お疲れ様。
とりあえずこれでも飲みながら、弁当食べて、一服してください」
監督が、上機嫌で缶ビールと、昼飯よりも豪華な弁当を渡して来た。
見ると、佐々木と長岡も飲みながら弁当をつついている。
「ホントは、この後、飲みにでも連れてってあげたいんだけど、どうしても外せない用事があってねぇ」
監督は申し訳なさそうに言った。
俺としては、どちらにしろ打ち上げに参加する気はなかったので、こちらの方がありがたかった。
「いただきます」
俺は、素直に受け取り、ビールを一気に喉に流し込み、渇きを潤した。
美味かった…
そして弁当を食べながら、彼らの話に加わった。
「監督、やっぱ今回のMVPは木下クンっスか?」
長岡が訊いた。
「う~ん、一応今の所そうだね。
でも今、クニが、一人カワイイ娘捕まえられそうだって連絡入ったから、その娘が来てからだね」
新井は、まだナンパに精を出しているらしい。
「あっ、クニさんまだやってるんですか?」
「ほら、昨日だって言ってたじゃん。
“耕平ちゃんには、負けたくない“
って」
佐々木と長岡が、そんな事を言い合っていた。
新井は、どうやら俺にライバル心があるようだった…
あれだけ女に対し、好きなように振る舞う事ができる新井が、俺にそんな気持ちを抱いている…悪い気はしなかった。
「だから、バイト代も、クニが連れて帰って来た…ま、連れて帰れるかどーかは分かんないだけど、その娘の撮影が終わってから支払うから、も少し待ってもらえるかな?
その後、撤収ってコトで、ヨロシクお願いします。
ビールならたくさん有るから好きなだけ飲んでくれて構わないからね」
沙織との約束の時間も気になったが、バイト代は貰っておきたかった。
だから監督に従い、もう暫く待つことにした。
そんなワケで、少しの間、監督達と会話しながら弁当を食べていたのだが、途中から、今までに感じた事のない激しい睡魔が襲って来た。
“なんだ?
どうしたんだ?俺…”
そう思っている間に、俺は眠りに堕ちていった…
……………
どれくらい眠ってしまったのだろう…
おそらくそう長い時間は経っていないだろう…20分か、30分。それくらいの時間、眠っていただけだと思う。
「…クン…木下クン…始まるよ…」
そんな声で目が覚めた。
頭がグラグラする…
まだボンヤリする目を開け、両脇を見ると、佐々木と長岡が、俺を真ん中にしてソファの両脇に座って、待ち遠しそうに、前に設置された2台の液晶モニターを見ている。
「やっぱ、さすがクニさんだなぁ~」
「めちゃくちゃカワイイじゃん」
そんな事を言っている。
まだハッキリしない頭をブルブル振って、俺も液晶モニターに目をやった。
「………エァッ!!!!!!??」
あまりの驚きに一気に目が覚めた。
いや、夢であって欲しかった…
液晶モニターには…
ソファに腰掛け、緊張した面持ちで、ぎこちない笑顔を浮かべた…
沙織が…
俺の彼女、沙織が写し出されていたのだ…
“なんで!?なんで沙織が此処に!!??”
全く状況が理解できなかった。
“俺が、こんなバイトをしてるのがバレたのか!?”
一番にそんな考えが頭をよぎり焦った。
だが、そういう雰囲気でもない…
とすれば…
俺は、よりゾッとする考えに思い至ってしまった…
“新井にナンパされて付いて来た?”
“いや、でも、あの沙織に限って…”
“じゃあ、なんでスタジオに居るんだ?”
“まずは止めなきゃ…そうだ、止めなきゃ!!”
俺は明確な答えを見つけられないまま、ソファを立ち上がろうとした。
ガチャン!!
だが、それは叶わなかった。
立ち上がろうとした俺は、両手首・両足首に強い痛みと、引っ張られるような感覚で、ふたたびソファに尻を着いてしまった。
「!!??」
驚いて手を見ようとしたが、ソファの背もたれの後ろに回されていて、動かす事ができない…
足を見ようと、身を乗り出すと、足首に何かが食い込み、手前に引っ張られるような感覚がする。
同時に手首にも同種の感覚が…
足首には手錠がかけられていた。
おそらく両手首にも手錠がかけられ、それらが、鎖かなにかで、ソファの背もたれから底を通り繋がっているのだろう。
足を前に出すと、手首が引っ張られる。
更に、俺はなぜだか全裸だった。
混乱と恐怖で、情けないくらいに縮み上がっているペニスが、股に埋まっている…
両脇に座っている二人に、どういうことか事情を問いただすために、怒鳴ろうとしたが…
「あ゛ーあ゛ー!!」
言葉が出ず、唸り声しか出てこない。
顎が痛い…
よだれが自分の胸から腹、ペニスや太股にまで滴り落ちている。
どうやらご丁寧に、ギャグボールと呼ばれるものだろうか…猿轡までされている様だ。
つまり、拘束されて、まともに動くことも、声を出すことも出来ない。
「ガーッ!!ガァアァッ!!」
ガチャ!!ガチャ!!
それでも精一杯、もがいてみた。
「ちょっとー!!
五月蝿いよ」
長岡が、そんな俺を制し、がら空きの脇腹を軽く殴った。
「…ンァッ!!」
軽くとはいえ、かなりの鈍い痛みに息が詰まった。
「おいおい…
あんまり暴力使うなって言われただろ~?
木下クンも、暴れちゃダメじゃん。
おとなしくしといてよ」
佐々木が言った。
「ゴメンねー。
俺らもイマイチ状況分かんないんだけどさー。
クニさんと監督の命令なんだよね~。
ちょっと、我慢しててよ。
それより佐々木、お前、ビデオ撮らなくてイイのかよ?」
「おっ!!
そうだった。
こっちも一応撮影しなきゃいけなかったな…」
佐々木は、そう言うと立ち上がり、予め三脚にセットされていたビデオカメラの録画スイッチを押した。
「イェ~イ」
長岡が俺にもたれ掛かり、ふざけてピースサインをカメラに送っている。
俺は精一杯の抵抗で、動ける範囲で長岡にぶつかった。
「…っんだよ!!
おとなしくしとけっつったろ!!」
ふたたび長岡の拳が、俺の脇腹に衝撃を与えた。
「ぉぉぉおっ!!!」
閉じることの出来ない口の端から、よだれを撒き散らし俺は痛みに悶絶した。
「だからぁ…
あんまり面倒かけさせないでよ…」
佐々木がそう言いながら、俺の横に腰を下ろした。
ビデオカメラは、そんな俺達3人がソファに座っている姿を収め続けている。
“いったい何で…
俺はこんな格好で、こんな目に…”
間違いなく、さっき口にした弁当に、何らかの薬物が仕込まれていたに違いない…
それにより、俺は少しの間、意識を失い、こんな風に拘束されてしまったのだ…
でも、何の為に?
沙織?
そうだ、沙織は!?
顔をあげ、モニターに目をやると…
『ハイッ、それじゃ、ここから本番ですから、さっき説明したように質問に正直に答えて行ってくださーい』
監督の鼻声が、モニターのスピーカーから聞こえた。
『はい』
小さく、だがハッキリと、モニターに映る沙織が返事をした。
何度見ても、それは、あの俺の最愛の沙織の姿で間違いなかった…
その可憐な沙織の横には…
新井が腰を下ろし、いつものニヤニヤした顔でカメラを…いや、コチラを見ている…
『それじゃはじめまーす』
…遂に、撮影が始まってしまった…