“なんで…どうして…
なんで沙織が此処に居るんだ”
俺は、やはり目の前のモニターに映る光景を受け入れる事が出来なかった。
そんな混乱する俺を余所に、撮影は始まってしまっていた…
『はい、こんばんわ』
監督が緊張した面持ちの沙織に声を掛けた。
『あ…はぃ…こんばんわ…』
『あれ?
緊張してますか?』
『あ…はい…少し』
『別に緊張しなくて大丈夫ですからね。
聞かれた事に答えて頂ければオッケーですし、どうしてもイヤな事はしなくて全然大丈夫ですから。
軽い気持ちで…ね』
『は…はい』
監督の言葉に若干、気を楽にしたのか、沙織は、いつもの屈託のない笑顔を見せた。
“そうだ、イヤな事はしなくていいんだ!!
って言うより、もうインタビューなんかイイから帰ってしまえ!!”
そんな俺の願いも空しく、インタビューは続く…
『それじゃあ、まずは下のお名前だけで結構ですから、お名前とお歳、ご職業を言える範囲で教えて下さい』
『あ、はぃ。
沙織です。
二十歳の学生です』
『学生って…大学生?専門学校?
まさか2回ダブってる高校生じゃないよね?』
『ぷっ…大学生です』
沙織は、あまりにもつまらない監督の冗談に吹き出しながら答えた。
『大学生ですか…
どちらの大学ですか?』
『…それはちょっと…
内緒です』
かわいらしく指でバッテンを作り答える沙織。
『そうですか…残念です』
ホントに残念そうな監督。
『ところで今日は街で、何をされていたんですか?』
『え~っと、お友達とお買い物です』
『何か良いものありましたか?』
『あっ、私はそのお友達の付き添いだったので…』
『あ~そうなんですか、それで、今そのお友達は?』
『帰っちゃいました』
『あら~、そりゃまたどうしてです?』
『何か急な用事が入ったからって…
ホントはこの撮影も、彼女の方がノリ気だったんです…』
“やっぱり!!
沙織に限って、一人でノコノコこんな所に付いて来るワケがナイんだ!!
それにしても、なんだ!!
その友達ってヤツは誰だ?
俺の知ってる娘か?”
そんな事を思っていると、両脇の佐々木と長岡が話をしだした。
「おい、佐々木。
この娘どうなると思う?」
「そーだなぁ…
服装から見ると、ホントにフツーって言うか、ウブな感じすっからなぁ…」
「だよなぁ…
インタビューに適当に答えて帰っちゃうパターンかもなぁ」
沙織の服装は、襟ぐりの少し空いた(鎖骨が見える程度)フワッとしたワンピースに、下はレギンスを穿いている。
その為、昨日のマリの様に、下着がチラチラ見えてしまうといった事もなく、そう言う点では安心だった。
それにしても、なんで俺は全裸にされた上に、拘束されなきゃいけないのだろう?
まるで沙織が俺の彼女だと知って、俺の邪魔が入らないようにこんな目に合わされてるとしか思えない…
だが、沙織の事は、誰も知らないハズだった…
それに、その友達とやらの存在がなければ、沙織は、まずナンパになんか付いて来る娘ではない。
偶然としか考えられない…
だが、偶然と考えると、今の俺の状況は理解出来ない…
少なくとも佐々木と長岡は、本当に沙織の事を知らないし、俺をこんな目に合わせたのは監督と新井の指示での事だ。
ではなぜ監督と新井は、俺をこんな目に…?
少なくとも二人から恨みをかう様な事はしてないつもりだ…
新井はともかく、監督とは昨日が初対面だったし…
何なんだろう…
少し冷静になっても、頭の中はクエスチョンマークだらけで、一向に状況の把握が出来ない…
ただ理解できたのは、ここは沙織の良識に賭けるしか無いと言うことだ…
昨日、今日と撮影をしてきて、監督も新井も、多少強引な所はあっても、嫌がる事を無理矢理に…レイプみたいな事はしない…
そう思えた。
『それで沙織さんは、今日、何と言われて隣の彼に声を掛けられたんですか?』
インタビューは続いている。
『えっと…
街行く女の子の意識調査に協力してくださいって…』
沙織が新井を見ながら答えた。
新井は笑顔で首を縦に振った。
『具体的には、何か聞いておられますか?』
『具体的って言うか…
ちょっとエッチなインタビューだって言われました』
『エッチなインタビュー、嫌じゃなかったですか?』
『いや、それはだから友達が…
それに…』
『それに?』
『謝礼の方もいただけるって聞いたので…』
沙織は、恥ずかしそうに答えた。
『あー、謝礼ですか…』
『えっ!?いただけないんですか?』
『いえいえ、勿論差し上げますよ。
ただその為には、ちゃんとインタビューに協力してくださいね』
『…ハィ』
『沙織さん、謝礼の使い途は、どうされるんですか?』
『えっ…あ、今度、彼と旅行に行くので…
今、その為に彼が一生懸命バイトしてくれてるんですけど、私も少しでも、協力できたらなって思って…』
“なんて事だ…
沙織は、俺の為に…二人の旅行の為に、こんな撮影に…”
「なんだ、彼氏持ちかよ~」
「エロい事させるの余計、難しいんじゃねぇ?」
佐々木と長岡が、失望したように言った。
『それじゃ、その彼との旅行の為に?』
『はい…まぁ…』
『泣かせますねぇ~
その彼氏は幸せ者だなぁ。
それじゃ、なおのこと頑張って下さいね。
頑張れば頑張るほど、謝礼の方は上がって行きますから』
『あ、ハイ。
頑張ります…』
また少し不安そうに、沙織は答えた。
『ま、でも、本当に無理な事はしなくても大丈夫ですからね。
滅多に出来ない経験だと思って、楽しんで下さい』
監督が優しく言った。
再び緊張がほぐれたのか、沙織はニッコリ微笑み言った。
『頑張ります!!』
『それじゃ、本題に入りましょう。
沙織さん、沙織さんは、いままで何人の男性とお付き合いされてきましたか?』
『えっ?』
『いままで何人の人と付き合って来ましたか?』
『えっと…一人です』
『えっ!?一人??』
『はい…』
『ホントに?
じゃ、その今の彼だけって事ですか?』
『はい…』
「ホントにウブっ娘じゃん…」
俺の隣で佐々木が呟いた。
『今の彼とは長いんですか?』
『もうすぐ1年です。
旅行は、その記念に…』
『へぇー、ラブラブなんですね?』
『……』
『付き合って、1年って事は、さすがにエッチはもうしましたよね?』
『……ハィ…』
沙織は俯いて小さく返事をした。
『当然、沙織さんにとっては、初めてだったワケですよね?』
『はい…』
『つい最近まで処女だったんですね?』
『…はい…』
『初めての時はどうでした?』
『どうって?』
『感想ですよ。
気持ちよかったとか、悪かったとか…』
『よく分かりません…
少し痛かったけど、友達とかに聞いてた程じゃなかった気がします…』
『そうですか…
最近は、いつエッチしましたか?』
『えっ!?
そんな事まで言うんですか?』
『できれば』
『……10日くらい前かな…』
『あれ?
結構ご無沙汰ですねぇ?』
『そうですか?
最近、彼、バイトとか忙しいし…』
『寂しくないですか?』
『連絡は小まめにくれますから…』
『でも、会いたいんじゃないですか?
会って抱いて欲しい…みたいな』
『抱いて欲しいってのは、あんまり無いですケド…』
『“あんまり”って事は、ちょっとは抱いて欲しいって思うって事ですか?』
『……そりゃ、少しは…』
『あー、沙織さんみたいなカワイイ娘に、寂しい思いをさせて、罪な彼氏ですねぇ…
じゃ、沙織さん、カメラの向こうの彼氏に、抱いて下さいって言ってみましょうか?』
『えっ!?えっ!?無理です無理です』
『えっ!?どうしてです?』
ホントに分からないといった感じで監督が訊いた。
『だって…恥ずかしいです…』
『恥ずかしくなんかないですよ。
好きな人に抱いて欲しいって思うのは当然じゃないですか?』
『そう…ですけど…』
『じゃ、ちょっと勇気を出して言ってみましょうよ』
そう言われて、沙織は少し黙り、何か思案していたが、意を決したようにカメラを見つめ言った。
『耕君…抱いて下さい…
……あー!!やっぱ恥ずかしいよー!!』
沙織は顔を真っ赤にして大きな声を上げた。
「コウクンー!?」
「こうくんー!?」
佐々木と長岡が、驚いた様に顔を見合わせ、俺に目を向けた…そして…
「はっ、なるほどね…
そーいう事か…」
佐々木が一人で納得した。
長岡は何の事か分かってはいない様子だったが、俺の下半身を見て、ニヤッといやらしい笑顔を見せた。
「木下クン…勃起しちゃってるよ」
「うー…あー…」
そうなのだ、俺はモニターの向こう側の、監督からのセクシャルな質問(とは言っても、まだそれほど過激ではないが)に健気に答える沙織の姿と、その沙織から、カメラ越しとは言え、初めて
『抱いて』
と言われた事に、興奮してしまったのだ…
「情けないな~“耕君”は…
すぐ勃っちゃって…」
佐々木が“耕君”と言うフレーズをわざと強調してバカにしたように言った。
「えっ!?あっ!?えっ!?
マジ!?
そうなん?
そう言うこと!?」
長岡が、ハイテンションで俺とモニターの沙織を交互に見ながら言った。
沙織の隣に座っている新井の目が、妖しく光ったような気がした…