牧原達と同じ飛行機だなんて、最悪だ。
折角良い気分で空の旅を楽しもうと思っていたのに、台無しじゃないか。
大体、大学生の男3人で〇〇島って……向こうで何するんだよ。
「おいおい直樹、なんだよその顔。男3人で〇〇島なんて可哀想な奴らだなって顔だな?」
「い、いや、別にそんな事はないけど……。」
俺は心を読まれてしまったようで一瞬ドキッとしたが、その後牧原はニヤニヤと笑みを浮かべながら俺の耳元でこう小さな声で囁いてきた。
「ま、女は現地で調達するつもりだけどな。」
そういう事か。
思い出した。
俺は知っている。牧原の女癖の悪さを。
どうやらそれは高校時代から変わっていないらしい。
高校時代、牧原は女子に対して2股3股なんて事を平気でやっていた。
昨日はあの子とヤッたとか、明日は隣のクラスのあの子とヤる予定だとか、アイツは感じやすいとか、喘ぎ声がデカいとか、そういう下品な事ばかりを男達の間で話していた。
新入生が入ってくる時期には、牧原を含めた何人かの男達で『3ヵ月で何人の処女を奪えるか勝負しよう』なんて会話をしているのも聞いた事がある。
はっきり言って俺は、牧原達のしている事は最低だと思っていた。だから俺は距離を置いていたんだ。価値観があまりにも合わない。
しかし牧原は、そんな最低行為を繰り返しているにも関わらずクラスの人気者だった。
特に女子からの人気は凄かった。
誰とでもコミュニケーションが取れるおしゃべり好きなのと、背が高くて容姿が整っているからというのもあるのだろう。
体育祭でも文化祭でも、牧原は常にクラスの中心にいた。
そして、そんなクラスメイト達に嫌気がさしていた俺はその中でどんどん孤立していった。
まさに俺と牧原は対照的な高校時代を送っていたと言えるだろう。
眩しいほどの人気者であった牧原に対して、俺はクラスの影で1人ポツンと生きていたんだ。
また嫌な事を思い出してしまったな。
でもいいんだ。
俺は大学生になって生まれ変わったのだから。それに今の俺には亜紀がいる。だからどうでもいい。高校時代の記憶なんて。
飛行機は少し遅れていたが、搭乗できる時間になってセキュリティチェックを済ませた俺達はようやく飛行機に乗ることができた。
しかし飛行機に乗ってから、さらに良くない事実が発覚した。
牧原達と俺達の席が隣だったのだ。
まさかここまで偶然が重なってしまうとは。
まぁ隣と言っても正確には窓側から亜紀、俺、通路を挟んで牧原達、という位置だから俺がそちらを向かないようにしていればいい話だ。
たとえ話し掛けられても、適当に躱(かわ)せば良い。
牧原達と出会ってしまったのは予想外だったが、向こうに着けば当然別行動な訳だから、行きの飛行機だけの我慢だ。
それから少しして、飛行機は無事に空港を飛び立った。
「ねぇねぇ直樹、ほら見て。」
窓際の席に座った亜紀が目をキラキラさせながらそう言ってきた。
亜紀が指差す窓の外に目をやると、そこには天気の良さも相まって上空からの絶景が広がっていた。
実は俺は飛行機があまり好きではないのだが、亜紀は窓からこういう景色が見れるから飛行機は好きだと言っていた。
確かに綺麗だ。
純粋に綺麗な物を見て感動している亜紀は素敵に見えた。
向こうでもこういう亜紀が沢山見れるといいな。
俺と亜紀が席で良い雰囲気で話している間も、隣にいる牧原達の話し声は相変わらず五月蠅(うるさ)かったし、時折俺達の方に話を振ってくるのも鬱陶しかったけれど、これくらいなら許容範囲内だった。
亜紀と牧原達との間には俺が座って壁を作っていたから、さっきみたいに亜紀をジロジロ見られる事もなかったしね。
しかしその状態は長くは続かなかった。
飛行機に乗ってから数十分後、突然俺の身体に異変が起きたのだ。